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進化学会(2009) WS "新奇形質獲得への裏口:ランダムな前適応と遺伝的同化"

第11回日本進化学会大会(札幌大会) ワークショップ W3C

概要

企画
岩嵜航(東北大・院・生命)

企画提出 ver.

生物が新しい形態や機能を獲得するメカニズムの解明は、進化生物学における主要な課題のひとつである。 本企画では、表現型として現れないまま集団中・集団間に蓄積していく中立変異と、 化学反応の確率性に由来する細胞内のゆらぎに着目する。 新奇形質は突然変異によって直接的に現れるのではなく、 外部環境の変化や内部環境のゆらぎによって生じる表現型多型の一部として現れ、 突然変異と自然選択によってその表現型を生じさせやすい遺伝的基盤が 後から徐々に固定していくのではないだろうか? 若手研究者を中心に話題提供を行い、このシナリオの可能性について議論したい。

要旨集掲載 ver.

生物は新しい機能や形態をどのように獲得してきたのか? 本企画では、表現型として現れないまま集団中・集団間に蓄積していく中立変異と、 化学反応の確率性に由来する細胞内のゆらぎに着目し、 それらを通した可塑的な適応が先に起こり後から遺伝的基盤が進化してくるという 新奇形質獲得のシナリオについて議論したい。

日時と場所

平成21年9月4日(金) 13:30-15:00
C会場 北海道大学高等教育機能開発総合センター

演題と要旨

企画
岩嵜航(東北大・院・生命)
座長
松橋彩衣子(東北大・院・生命)
コメンテータ
三浦徹(北大・地球環境)

[W3C-1] 遺伝子制御ネットワークの隠れた変異がもたらす表現型可塑性の多型

岩嵜航、津田真樹、河田雅圭 (東北大・院・生命)

転写制御などを介した遺伝子間の相互作用は複雑なネットワーク(遺伝子制御ネットワーク:GRN)を形成し、 細胞分化や環境応答など生物のさまざま機能を生み出している。 シス制御領域の突然変異などによるGRNの構造変化は、 時間的・空間的に新しい遺伝子発現パターンをもたらし、 不連続な表現型変化を可能にする。 その一方で、GRNは相互作用の変化に対して頑健であり、 表現型を維持したまま突然変異によって変化していくことができるという理論研究がある。 これらのことから、ある環境では表現型に現れないGRNの中立多型が集団中に維持されていること、 またそれが環境変化を受けることで顕在化し、 多様な表現型応答を生み出して新奇形質の登場に寄与することが示唆される。 突然変異が個体ごとにしか起こらないのに対して、 環境変化は一度に集団全体に影響を与えるため表現型探索の効率を高めると考えられる。 本研究では、GRNを組み込んだ個体ベースモデルによる進化シミュレーションを用いて、 GRNの多型に対する環境変化・遺伝的変化が集団の表現型変異に与える影響を評価した。

[W3C-2] 栄養枯渇に対する適応応答における遺伝子発現の多様性の役割

津留三良 ^1^ 、インベイウェン ^1^ 、森光太郎 ^1^ 、潮田純弥 ^1^ 、柏木明子 ^2^ 、四方哲也 ^1^ (1 阪大 院情報科学、2 弘前大・農学生命科学)

生物は多様な遺伝子発現プログラム(転写制御機構)を適切に駆使することによって、 対応する様々な外部環境変化に対して適応的な遺伝子発現パターンへ変化し、対応している。 このように、転写制御が環境に対する特異性・専門性を持つことで、 適応的な遺伝子発現が補償されているが、細胞内環境はエラープローンであるため、 変異や挿入によって本来の制御・被制御の関係が遺伝的に改変・再編されやすい。 このような再編を受けた遺伝子発現プログラムは、新規機能を獲得するチャンスがあるが、 その代償として、既に獲得していた環境に対する特異性を失うことになり、 何らかの補償効果がない限り、進化能の障壁となりうる。 本研究では、この補償効果の有無とそのシナリオを明らかにするため、 アミノ酸合成に関わる転写制御を人工的に改変した大腸菌を用い、 本来対応可能であったアミノ酸枯渇に対する応答(遺伝子発現、増殖速度)を調べた。 予想に反した補償効果として、本来の転写制御を用いない適応的な遺伝子発現パターンへの変化が観察され、 それを可能とする、遺伝子発現の確率的性質に基づくシナリオを紹介する。

[W3C-3] 植物の野外集団における隠蔽変異

山口正樹、工藤洋 (京大・生態研)

隠蔽変異とは、熱ショックなどのストレス環境等特殊な条件下でのみ表現型に現れる遺伝的変異である。 その性質から、隠蔽変異は通常の環境下では集団中に中立的に蓄積する。 隠蔽変異の蓄積機構は、適応度に影響しうる遺伝的変異を蓄積することを介して、 進化に貢献する可能性がある。 隠蔽変異の蓄積機構の一つとして知られているのが、 分子シャペロンの一種であるヒートショックプロテイン90(HSP90)の働きである。 HSP90の働きを阻害した場合に表現型に現れる遺伝的変異が増加することが報告されている。 また、熱ショックによってもHSP90を阻害した場合と同様の変異の表出が見られる。 このことから、HSP90は軽度な遺伝的変異を隠蔽する働きを持ち、 熱ショックが加わると、変異を隠蔽する働きが低下すると考えられる。 野外においてもタンパク質の変性を誘発する様々な環境要因の違いが 集団の隠蔽変異の蓄積量を決定している可能性がある。 シロイヌナズナ属のタチスズシロソウとミヤマハタザオは、 同種の亜種でありながら砂浜と高山という温度環境が大きく異なる場所に生育する。 この2亜種を材料とし、野外集団における隠蔽変異の蓄積量を調べた。

打ち上げ

たくさんのご参加ありがとうございました。

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