Heavy Watal

Community Ecology 輪読会 11章 — Evolutionary processes in community ecology

Community Ecology: Processes, Models, and Applications (Oxford Biology)

Author
Jacintha Ellers
Book
Community Ecology: Processes, Models, and Applications
Editor
Herman A. Verhoef and Peter J.Morin
Publisher
Oxford University Press
11章担当
岩嵜航
実施日
2013-03-01

11.1 イントロ

群集生態学の対象
distribution: 分布
abundance: どの種がどれくらい存在するか
demography: 個体数の動態
interaction: 特定の場所に共存する個体群間の相互作用

種多様性、食物網構造、侵入などについての記述には成功

群集生態学の2つの欠点

進化的な視点も合わせれば生態学的な問いに取り組みやすくなるはず

11.1.1 進化生物学と群集生態学の橋渡し

(群集生態学から見た)進化生物学


群集生態学のモノサシ

生態系の機能
productivity: 生産力
carbon storage: 炭素含量
nutrient acquisition: 栄養摂取量
decomposition rate: 分解率
人間が自然を管理する上で望まれる特性
species diversity: 種多様性
community stabitlity: 群集安定性
resilience: レジリエンス (= resistance + recovery)

それらを進化学的に見ると

そういう食い違いがあったので

ということでまずは 共通の基準 を持つことが重要


この章では新しい融合領域「進化群集生態学」のアウトラインを提示したい。

個体間変異、種間変異 ⇌ 群集の構成や機能性
(ただし前半で示すのは右方向の矢印のみ)

種分化が起こるような大進化のタイムスケールの話までは突っ込まない。

11.2 進化生物学: 遺伝的変異と表現型変異の機構

進化生態学では

11.2.1 遺伝的多様性を維持することの、集団レベルでの利益

変異の源

集団中の変異の増減

突然変異の大部分が有害だと著者は述べているが、 むしろ中立な場合が多いというのが一般的な認識では?

「絶滅リスクを下げる」という将来の集団にかかるメリットのために遺伝的変異が維持される、 と考えるのは進化学的におかしい。 結構デリケートな話題なので少なくともこんなにさらっと流すべきではない。

適応的な理由で多型が維持されやすくなる機構としては以下のようなものが考えられる

  • 超優勢: ヘテロな遺伝子型が有利
  • 頻度依存選択: 稀なほど有利

“集団サイズ x 突然変異率” がそこそこ高ければ、 特に適応的意義がなくても mutation-selection-drift balance によってある程度の変異は維持される。


集団内の遺伝的変異が絶滅率を下げる2つの主なメカニズム

Tangled Bank (絡まりあった土手) 仮説

特性の違う個体がいたほうが、ヘテロな資源(ニッチ)を相補的にうまいこと使いきれる

Antonovics 1978 (PDF)

異なるマイクロニッチを探索するので遺伝子型間の対立・競争が弱まるだろう
Bell 1991
クラミドモナスの複数系統を複数環境で培養して、 内的自然増加率 r と環境収容力 K を定量化し、 G × E が種内レベルでも重要であることを示した。
Barrett et al. 2005
シュードモナス属の蛍光細菌を異なる複雑さの環境(養分が1–8種類)で培養すると、 複雑な(多種類の養分を含む)環境ほど適応度の平均も分散も大きな遺伝子型が進化した。 集団内の個体差を見ると「得意分野の異なる半端なジェネラリスト」たちが共存していた。

語源は Darwin 1859 “On the Origins of Species”

It is interesting to contemplate an entangled bank, clothed with many plants of many kinds, with birds singing on the bushes, with various insects flitting about, and with worms crawling through the damp earth, and to reflect that these elaborately constructed forms, so different from each other, and dependent on each other in so complex a manner, have all been produced by laws acting around us.

Red Queen (赤の女王) 仮説

寄生者や感染症など、種特異性が高く進化速度の早い敵に対しては、 遺伝的変異をどんどん作って進化しないとヤバいだろう (Jaenike 1978)

種内の遺伝的多様性がプラスに働く実証例

Hughes and Stachowicz 2004

ガチョウに対するアマモの食害耐性
Mattila and Seeley 2007
ミツバチの摂餌率、食料備蓄、増殖速度
Gamfeldt et al. 2005
フジツボのキプリス幼生の定着成功率

最初に提唱したのは Van Valen 1973

化石記録を見てみると、種分化が成立してからの年代と絶滅確率には相関がなかった。 適応しきれば絶滅しにくくなる、ということはなく、 どんな種も絶滅せずその場に留まるために常に進化を強いられてるんじゃないか、という。 元ネタはもちろん「鏡の国のアリス」


遺伝的多様性により適応度が上昇するメカニズムを実際に特定した研究例は稀。

Reusch et al. 2005 アマモ Zostera marina

集団内の遺伝子型の数を変化(1, 3, 6種類)させたアマモを飼育すると、 多様な集団ほど芽の数もバイオマスも増加。 強い遺伝子型がいたから、ではなく、遺伝子型間の相互作用によるものであると示した。 (Figure 11.1)

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Tagg et al. 2005 ミジンコ Daphnia obtusa

無性生殖 vs 有性生殖で双方向に侵入実験をしたところ、 遺伝的多様性が高い有性生殖集団ほうが侵入力、防御力ともに高い。 これは competitive release によるものである。

Schmid 1994 セイタカアワダチソウ Solidago altissima

遺伝的多様度を操作する実験区で、うどんこ病の感染と植物の成功度を測った。 (あまりキレイな結果ではないっぽい)

Semlitsch et al. 1997 ヨーロッパトノサマガエル Rana esculenta

R. ridibundaR. lessonae のその雑種である R. esculenta を高密度・低密度の2環境で、単独・混合飼育した場合に変態までの時間がどうなるか調べた。

ハイブリッドジェネシスによるヘミクローン繁殖

他種のオスの精子を取り込んで雑種の受精卵を作るが、 その受精卵から生まれるのはメスばかりで、 しかもその娘が卵を作るときは父由来のゲノムを捨てて母由来のゲノムだけを使う。 これだけでも材料としておもしろい。 このカエルのほかには、ナナフシ、カダヤシ、アイナメ(?) でしか確認されていない。 (図は Neaves and Bumann 2011 Trends Genet)

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2013年2月の Nature にも宿主両生類の種多様性が寄生性吸虫類の伝播を抑制して疾患を低減するという報告

11.2.2 遺伝的変異の定量化


中立マーカーによって測った遺伝的変異と、量的形質のばらつき、強い相関があるとは限らない。

Merila and Crnokrak 2001
18研究のメタ解析で FST と QST を比較。 基本的に両者はそこそこ相関しているが、 だいたいいつも QST > FST であり、 その差は利用する中立マーカーによっても異なる。
Reed and Frankham 2001
71研究例のメタ解析してみたら、 中立マーカーのばらつきと量的形質のばらつきの相関はたったの r = 0.217 しかない。
McKay and Latta 2002
29種のメタ解析で QST と FST を比較。 同じ種でも QST がどれだけ FST から逸脱するかは形質により異なる。 単純に量的形質のばらつきのプロキシとしてではなく、 ちゃんと分離して情報を得るべし。

集団間の分化の度合いを測る FST と QST

FST
中立マーカーにおける集団間の遺伝的分化
QST
量的形質における集団間の遺伝的分化。

QST > FST ならば集団間で異なる表現型が好まれるような多様化選択
QST < FST ならば集団間で同じ表現型好まれるような純化選択

11.2.3 遺伝的多様性と表現型多様性の関係

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遺伝的多様性が表現型多様性のproxyとして危うい、というもうひとつの理由

表現型可塑性 (phenotypic plasticity)
ひとつの遺伝子型で環境に応じて異なる表現型(形態、生理的機能)を可塑的に発現
応答規範、反応基準 (reaction norm)
ある遺伝子型が環境条件に応じてどのような表現型を発現するか、という関係
Figure 11.2a
ひとつの曲線はひとつの遺伝子型。 どの環境に適応しているか(ピークのx座標)は共通しているが、 ピークの高さと裾野の広がりが異なる。 この場合、至適な環境でのパフォーマンスが高いやつほど小さな環境変化でダメになる。
Via et al. 1995 TREE Perspective
応答規範は遺伝的に決まっており、それ自体が進化しうるものだ。

表現型可塑性は環境の時空間的な 異質性 (heterogeneity) への適応

たまにしか使わないタンパク質を常に発現させておくのはコストが大きいので、 刺激に応じてオンオフ切り替える。

e.g. ショウジョウバエの熱応答 (Krebs and Holbrook 2001)
ヒートショックを与えてHsp70を発現させると、 その遺伝子コピーを余計に持っている株では 熱感受性のADH遺伝子の活性が落ちてしまった。 分子シャペロンが過剰に発現していると未熟なペプチドに結合したりして有害だ、と示唆。

「環境」には気温などの無機的なものだけでなく、生物間相互作用も含まれる


canalization (運河化、しいて言うなら)
環境が多少ぶれても普通の表現型を発現するように進化的に発生過程が安定化すること

epigenetic landscape

本文で引用されてる Schlichting and Pigliucci 1998 はいい本だけどやはりそこは Waddington 1957 に触れてほしいところ。

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Figure 11.2b
環境中央付近ではどの遺伝子型も同じような表現型応答を示している (canalizeされている) が、閾値を超えた両端の環境では遺伝子型によって応答規範が異なり、 遺伝子型の違いが表現型の違いとして顕在化する。

表現型可塑性の度合いが遺伝子型によって異なることを示した研究例

Scheiner and Lyman 1989
表現型分散 = 遺伝分散 + 環境分散 + G × E と切り分け、 G × E の部分を表現型可塑性の遺伝率としてキイロショウジョウバエで定量化。
Loeschcke et al. 1999
同所的に生息するサボテン食いのショウジョウバエ2種について、 いろいろな温度環境で飼育して胸部や翅脈の長さを計測。 両種の応答規範は異なっており、温度適応の過程も異なっていたことを示唆。
Liefting and Ellers 2008
森林と荒地からトビムシを採ってきて、 室内で最低2世代飼育して母性効果を取り除いた後、 異なる温度で生まれてきた子の成長速度と卵サイズを計測。 変わりやすい荒地から採ってきたやつのほうが急峻な応答規範を示した。

11.3 群集の特性が個体レベルの遺伝子型や選択によって決まる実例

延長された表現型 Dawkins 1982

進化の基本単位は遺伝子であるが、 遺伝子の表現型は個体だけでなくその外部にも拡張して解釈できる。

Whitham et al. 2003
種内変異が群集・生態系のパフォーマンスにも影響する、 ということを示したメタ研究

植物の二次代謝産物の遺伝的差異が対植食者防御に影響する例

Havill and Raffa 2000
ポプラ、その葉を食うマイマイガ、その幼虫に寄生するコマユバチ。 ダメージを受けたポプラからでる二次代謝産物はマイマイガに毒性があるだけでなく、 マイマイガの天敵コマユバチを誘引することで間接的にさらに防御。
Harvey et al. 2003
アブラナ科のカラシナとヤセイカンラン、 それを食べる植食者モンシロチョウ、 その幼虫に寄生するアオムシコマユバチ、 さらにそいつに寄生する超寄生蜂 *Lysibia nana*、 という4栄養段階に渡って植物の二次代謝産物がボトムアップ的に影響。

植物の種間変異が上位の群集構造に影響する例

Dungey et al. 2000
ユーカリ属2種とその雑種 F1, F2 でそれぞれ実験区を作って そこに生息する節足動物の種多様性を計測したところ、 F1で種多様性が最大となった。
Sznajder and Harvey 2003
アブラナ科3種の上でヤガ2種とそれぞれの寄生蜂を飼育。 二次代謝産物と寄生蜂を介した間接的防御は植食者のスペシャリスト度合いに依存。
Wimp et al. 2005
ハコヤナギ2種とその雑種を2年間に渡って野外およびcommon-gardenで観察。 遺伝子型によって生息する節足動物の種多様性は変わらないが、 その中に含まれる種組成は異なっていた。

その他、延長された表現型の例

両生類全般における対捕食者防御
(なぜか本文中に文献引用ないので北大岸田さんのウェブサイトにリンク)
Fabricius et al. 2004
サンゴの白化耐性は、そこに棲む藻類の熱耐性株とうまくやれるかどうかに依存。

一次生産者たる植物の種内変異が群集に影響を及ぼすことを示した研究例

Roscher et al. 2007
同じプロットに一緒に植える植物の種多様性(1, 2, 4, 8, 16, and 60) と機能群多様性 (1, 2, 3, and 4) を操作して、 ホソムギの複数品種における冠サビ病と黒サビ病の感染率・強度を調べた。
Stiling and Rossi 1996
異なる場所に生息するキク科植物の同種2系統を相互移植して、 タマバエによる虫コブのサイズ、放棄率、コバチによる寄生率を計測。 虫コブのサイズを介して、ボトムアップ効果が間接的にトップダウン効果に影響。
Johnson and Agrawal 2005
メマツヨイグサ14系統を5つの野外サイトに植えて、その上に生息する節足動物をカウント。 種多様性、種組成、バイオマスなどのばらつきの40%も植物の遺伝子型で説明できた。 ただし G × E 相互作用も有意に効いていたし、 環境と比べた相対的な影響力は環境のスケールに依存していた。 上位捕食者よりも植食者のほうが強い影響を受けていた。
Crawford et al. 2007
セイタカアワダチソウにロゼット型虫コブを作るタマバエの生態系エンジニアとしての役割。 虫コブありのほうがほかの節足動物の種多様性も高くなる。 その度合は宿主植物の遺伝子型との相性が影響し、 宿主植物の遺伝的多様性が高いほど全体として高くなる。
Madritch et al. 2006
common-garderで育った5つの遺伝子型のアメリカヤマナラシ(ポプラ)の葉のリターを1年間追跡調査し、 遺伝子型によって分解率とそれに伴う栄養塩供給が異なるを明らかにした。

植物以外に着目した研究は多くないが、あるにはある

References

Community Ecology: Processes, Models, and Applications (Oxford Biology) The Geographic Mosaic Of Coevolution (Interspecific Interactions) Phenotypic Evolution: A Reaction Norm Perspective 延長された表現型―自然淘汰の単位としての遺伝子