統計モデリング入門 2026 岩手連大

岩嵜 航
東北大学 生命科学研究科 進化ゲノミクス分野 牧野研 特任助教
  1. 導入、直線回帰
  2. 確率分布、擬似乱数生成
  3. 尤度、最尤推定
  4. 一般化線形モデル(GLM)
  5. 個体差、一般化線形混合モデル(GLMM)
  6. ベイズの定理、事後分布、MCMC
  7. StanでGLM
  8. 階層ベイズモデル(HBM)
2026-06-22 岩手大学 連合農学研究科
https://heavywatal.github.io/slides/iwate2026stats/

データを使ってやりたいこと

  • 現象を理解したい
  • 将来を予測したい
  • ものを分類・判別したい
  • 挙動を制御したい
  • 新しい何かを生成したい

そのために解析は必要? 未加工の生データこそ宝?

データ解析って必要? 生データ見ればいいべ?

生のままでは複雑過ぎ、情報多すぎ、何もわからない。

print(ggplot2::diamonds)
      carat       cut color clarity depth table price    x    y    z
    1  0.23     Ideal     E     SI2  61.5    55   326 3.95 3.98 2.43
    2  0.21   Premium     E     SI1  59.8    61   326 3.89 3.84 2.31
    3  0.23      Good     E     VS1  56.9    65   327 4.05 4.07 2.31
    4  0.29   Premium     I     VS2  62.4    58   334 4.20 4.23 2.63
   --                                                               
53937  0.72      Good     D     SI1  63.1    55  2757 5.69 5.75 3.61
53938  0.70 Very Good     D     SI1  62.8    60  2757 5.66 5.68 3.56
53939  0.86   Premium     H     SI2  61.0    58  2757 6.15 6.12 3.74
53940  0.75     Ideal     D     SI2  62.2    55  2757 5.83 5.87 3.64

ダイヤモンド53,940個について10項目の値を持つデータセット

要約統計量を見てみよう

各列の平均とか標準偏差とか:

  stat carat depth table    price
1 mean  0.80 61.75 57.46  3932.80
2   sd  0.47  1.43  2.23  3989.44
3  max  5.01 79.00 95.00 18823.00
4  min  0.20 43.00 43.00   326.00

大きさ carat と価格 price相関係数はかなり高い:

      carat depth table price
carat  1.00                  
depth  0.03  1.00            
table  0.18 -0.30  1.00      
price  0.92 -0.01  0.13  1.00

生のままよりは把握しやすいかも。

しかし要注意…

要約統計量だけ見て可視化を怠ると構造を見逃す

https://www.research.autodesk.com/publications/same-stats-different-graphs/

データ可視化は理解の第一歩

情報をうまく絞って整理 → 直感的にわかる

plot of chunk simplify-diamonds

carat が大きいほど price も高いらしい。
その度合いは clarity によって異なるらしい。

統計とは

データをうまくまとめ、それに基づいて推論するための手法。

  • 記述統計: データそのものを要約する
    • 要約統計量 (e.g., 平均、標準偏差、etc.)
    • 作図、作表
  • 推測統計: データの背後にある母集団・生成過程を考える
    • 数理モデル
    • 確率分布
    • パラメータ(母数)

「グラフを眺めてなんとなく分かる」以上の分析にはモデルが必要

モデルとは

対象システムを単純化・理想化して扱いやすくしたもの

Mathematical Model 数理モデル
数学的な方程式として記述されるもの。
e.g., Lotka-Volterra eq., Hill eq.

Computational Model 数値計算モデル
数値計算の手続きとして記述されるもの。
e.g., Schelling’s Segregation Model, tumopp

Concrete Model 具象モデル
具体的な事物で作られるもの。
e.g., San Francisco Bay-Delta Model
Weisberg 2012 Simulation and Similarity (科学とモデル)

データ科学における数理モデル

データ生成をうまく真似できそうな仮定の数式表現。

データ分析のための数理モデル入門」江崎貴裕 2020 より改変

データ科学における数理モデル

データ生成をうまく真似できそうな仮定の数式表現。
e.g., 大きいほど高く売れる: $\text{price} = A \times \text{carat} + B + \epsilon$

plot of chunk lm-diamonds

新しく採れたダイヤモンドの価格予想とかにも使える。

このように「YをXの関数として表す」ようなモデルを回帰と呼ぶ。

回帰は教師あり機械学習の一種とも言える

でも統計モデリングはいわゆる“機械学習”とは違う気もする…?

モデリングにおける2つのアプローチ

データ分析のための数理モデル入門」江崎貴裕 2020 より改変

どっちも知っておいて使い分けたい

項目 統計モデリング 近年の機械学習
モデル構造 単純化したい 性能のためなら複雑化
モデル解釈 ここが強み 難しい。重視しない。途上。
予測・生成 うまくすれば頑健 主目的。強力。高精度
データ量 少なくてもそれなり 大量に必要
計算量 場合による 場合による
一般化線形モデル
階層ベイズモデル
ランダムフォレスト
ニューラルネットワーク

教科書的には概ねこんな感じとして、実際の仕事ではどうだろう?

現役データサイエンティスト2人に聞きました

  • 統計モデルはデータ加工など事前の手続きが多め。
    機械学習は事前の決定が少ないので楽ちん。
  • 「要因の効果はどれくらい?」
    意思決定をするのは結局人間。物事を分かった上で判断したい。
    実務の人への説明意思決定の場面で解析の解釈性が重要。
  • 仮説があるなら、それに基づいて統計モデリング。
    何もないところからまず機械学習で要因抽出・仮説生成するのもあり。
  • 統計モデル縛り・実行環境縛りなどの案件もある。
  • 分析方針を決める立場の上級職になるつもりなら統計モデルも必要。

協力: @kato_kohakuさん、@teuderさん

統計モデリングの教科書決定版: 久保先生の緑本

ちょっとずつ線形モデルを発展させていく。

データ解析のための統計モデリング入門 久保拓弥 2012
https://kuboweb.github.io/-kubo/ce/IwanamiBook.html

線形モデル LM (単純な直線あてはめ)

↓ いろんな確率分布を扱いたい

一般化線形モデル GLM

個体差などの変量効果を扱いたい

一般化線形混合モデル GLMM

↓ もっと自由なモデリングを!

階層ベイズモデル HBM

最小二乗法


最尤推定法



MCMC

データ解析のための統計モデリング入門」久保拓弥 2012 より改変

余裕があれば、手元でRを動かして体感しよう!

  1. こういう枠が出てきたら、自分のRスクリプトにコピペして保存:
    head(iris)
    
  2. 実行してコンソールを確認。思ったとおりの出力?
    ErrorWarning があったらよく読んで対処する。
  3. 🔰若葉マークの練習問題があれば解いてみる。
    そこまでのコードのコピペ+改変でできるはず。


Rの基礎、データ前処理、データ可視化などについては別資料を参照:
https://heavywatal.github.io/slides/tohoku2026r/1-introduction.html

Rとは

統計解析と作図の機能が充実したプログラミング言語・環境

https://cran.r-project.org/
クロスプラットフォーム
Linux, Mac, Windows で動く
オープンソース
永久に無償で、すべての機能を使える。
集合知によって常に進化している。
コミュニティ
相談できる人や参考になるウェブサイトがたくさん見つかる。

他のプログラミング言語でもいいよ: PythonとかJuliaとか。

よりよい回帰をめざして

久保先生の緑本に沿ってちょっとずつ線形モデルを発展させていく。

データ解析のための統計モデリング入門 久保拓弥 2012
https://kuboweb.github.io/-kubo/ce/IwanamiBook.html

線形モデル LM (単純な直線あてはめ)

↓ いろんな確率分布を扱いたい

一般化線形モデル GLM

個体差などの変量効果を扱いたい

一般化線形混合モデル GLMM

↓ もっと自由なモデリングを!

階層ベイズモデル HBM

最小二乗法


最尤推定法



MCMC

データ解析のための統計モデリング入門」久保拓弥 2012 より改変

直線あてはめ: 統計モデルの出発点

plot of chunk weight-lm
  • 身長が高いほど体重も重い。いい感じ。

(説明のために作った架空のデータ。今後もほぼそうです)

回帰モデルの2段階

  1. Define a family of models: だいたいどんな形か、式をたてる

    • 直線: $y = a_1 + a_2 x$
    • 対数: $\log(y) = a_1 + a_2 x$
    • 二次曲線: $y = a_1 + a_2 x^2$
  2. Generate a fitted model: データに合うようにパラメータを調整

    • $y = 3x + 7$
    • $y = 9x^2$

https://r4ds.had.co.nz/model-basics.html

たぶん身長が高いほど体重も重い

なんとなく $y = a x + b$ でいい線が引けそう
 

plot of chunk weight-height

たぶん身長が高いほど体重も重い

なんとなく $y = a x + b$ でいい線が引けそう
じゃあ傾き a と切片 b、どう決める?

plot of chunk weight-lines

最小二乗法 (Ordinary Least Square: OLS)

回帰直線からの残差平方和(RSS)を最小化する。

plot of chunk weight-residual

残差平方和(RSS)が最小となるパラメータを探せ

ランダムに試してみて、上位のものを採用。
この程度の試行回数では足りなそう。

plot of chunk weight-goodlines

残差平方和(RSS)が最小となるパラメータを探せ

グリッドサーチ: パラメータ空間の一定範囲内を均等に試す。
さっきのランダムよりはちょっとマシか。

plot of chunk weight-grid

こうした最適化の手法はいろいろあるけど、ここでは扱わない。

これくらいなら一瞬で計算してもらえる

par_init = c(intercept = 0, slope = 0)
result = optim(par_init, fn = rss_weight, data = df_weight)
result$par
intercept     slope 
-69.68394  78.53490 

plot of chunk weight-lm

上記コードは最適化一般の書き方。覚えなくていい。
回帰が目的なら次ページのようにするのが楽 →

lm() で直線あてはめしてみる

架空のデータを作る(乱数生成については後述):

n = 50
df_weight = tibble::tibble(
  height = rnorm(n, 1.70, 0.05),
  bmi = rnorm(n, 22, 1),
  weight = bmi * (height**2)
)

データと関係式(Y ~ X の形)を lm() に渡して係数を読む:

fit = lm(data = df_weight, formula = weight ~ height)
coef(fit)
(Intercept)      height 
  -69.85222    78.63444 

せっかくなので作図もやってみる→

lm() の結果をggplotする

df_aug = broom::augment(fit, type.predict = "response")
head(df_aug, 3L)
    weight   height  .fitted    .resid       .hat   .sigma     .cooksd .std.resid
1 63.62151 1.718019 65.24322 -1.621716 0.02187518 3.026731 0.003331001 -0.5457876
2 72.59199 1.782862 70.34213  2.249856 0.06665415 3.017105 0.021454263  0.7751388
3 58.69604 1.617464 57.33617  1.359869 0.07039872 3.029189 0.008345025  0.4694559
ggplot(df_aug) +
  aes(height, weight) +
  geom_point() +
  geom_line(aes(y = .fitted), linewidth = 1, color = "#3366ff")

plot of chunk lm-ggplot

🔰 ほかのデータでも lm() を試してみよう

fit = lm(data = mpg, formula = hwy ~ displ)
broom::tidy(fit)
         term  estimate std.error statistic       p.value
1 (Intercept) 35.697651 0.7203676  49.55477 2.123519e-125
2       displ -3.530589 0.1945137 -18.15085  2.038974e-46
mpg_aug = broom::augment(fit, type.predict = "response")
ggplot(mpg_aug) + aes(displ, hwy) + geom_point() +
  geom_line(aes(y = .fitted), linewidth = 1, color = "#3366ff")

plot of chunk lm-mpg

🔰 diamonds などほかのデータでも lm() を試してみよう。

参考文献

2. 確率分布、擬似乱数生成