確率分布を理解する統計モデリング入門

岩嵜 航 (Watal M. Iwasaki, PhD)
東北大学 生命科学研究科 進化ゲノミクス分野 特任助教
(Graduate School of Life Sciences, Tohoku University)
  1. 統計モデリング基礎: 確率分布、尤度
  2. 一般化線形モデル、混合モデル
  3. ベイズ統計、階層ベイズモデル

データを使ってやりたいこと

  • 現象を理解したい
  • 将来を予測したい
  • ものを分類・判別したい
  • 挙動を制御したい
  • 新しい何かを生成したい

そのために解析は必要? 未加工の生データこそ宝?

データ解析って必要? 生データ見ればいいべ?

往々にして複雑過ぎ、情報多すぎ、そのままでは手に負えない

print(ggplot2::diamonds)
      carat       cut color clarity depth table price     x     y     z
      <dbl>     <ord> <ord>   <ord> <dbl> <dbl> <int> <dbl> <dbl> <dbl>
    1  0.23     Ideal     E     SI2  61.5    55   326  3.95  3.98  2.43
    2  0.21   Premium     E     SI1  59.8    61   326  3.89  3.84  2.31
    3  0.23      Good     E     VS1  56.9    65   327  4.05  4.07  2.31
    4  0.29   Premium     I     VS2  62.4    58   334  4.20  4.23  2.63
    5  0.31      Good     J     SI2  63.3    58   335  4.34  4.35  2.75
    6  0.24 Very Good     J    VVS2  62.8    57   336  3.94  3.96  2.48
    7  0.24 Very Good     I    VVS1  62.3    57   336  3.95  3.98  2.47
    8  0.26 Very Good     H     SI1  61.9    55   337  4.07  4.11  2.53
    9  0.22      Fair     E     VS2  65.1    61   337  3.87  3.78  2.49
   10  0.23 Very Good     H     VS1  59.4    61   338  4.00  4.05  2.39
   11  0.30      Good     J     SI1  64.0    55   339  4.25  4.28  2.73
   12  0.23     Ideal     J     VS1  62.8    56   340  3.93  3.90  2.46
   13  0.22   Premium     F     SI1  60.4    61   342  3.88  3.84  2.33
   14  0.31     Ideal     J     SI2  62.2    54   344  4.35  4.37  2.71
   15  0.20   Premium     E     SI2  60.2    62   345  3.79  3.75  2.27
   --                                                                  
53926  0.79     Ideal     I     SI1  61.6    56  2756  5.95  5.97  3.67
53927  0.71     Ideal     E     SI1  61.9    56  2756  5.71  5.73  3.54
53928  0.79      Good     F     SI1  58.1    59  2756  6.06  6.13  3.54
53929  0.79   Premium     E     SI2  61.4    58  2756  6.03  5.96  3.68
53930  0.71     Ideal     G     VS1  61.4    56  2756  5.76  5.73  3.53
53931  0.71   Premium     E     SI1  60.5    55  2756  5.79  5.74  3.49
53932  0.71   Premium     F     SI1  59.8    62  2756  5.74  5.73  3.43
53933  0.70 Very Good     E     VS2  60.5    59  2757  5.71  5.76  3.47
53934  0.70 Very Good     E     VS2  61.2    59  2757  5.69  5.72  3.49
53935  0.72   Premium     D     SI1  62.7    59  2757  5.69  5.73  3.58
53936  0.72     Ideal     D     SI1  60.8    57  2757  5.75  5.76  3.50
53937  0.72      Good     D     SI1  63.1    55  2757  5.69  5.75  3.61
53938  0.70 Very Good     D     SI1  62.8    60  2757  5.66  5.68  3.56
53939  0.86   Premium     H     SI2  61.0    58  2757  6.15  6.12  3.74
53940  0.75     Ideal     D     SI2  62.2    55  2757  5.83  5.87  3.64

ダイヤモンド53,940個について10項目の値を持つデータセット

要約統計量を見てみよう

各列の平均とか標準偏差とか:

   stat carat depth table    price     x     y     z
  <chr> <dbl> <dbl> <dbl>    <dbl> <dbl> <dbl> <dbl>
1  mean  0.80 61.75 57.46  3932.80  5.73  5.73  3.54
2    sd  0.47  1.43  2.23  3989.44  1.12  1.14  0.71
3   max  5.01 79.00 95.00 18823.00 10.74 58.90 31.80

大きさ carat と価格 price の相関係数は 0.92 (かなり高い)。

生のままよりは把握しやすいかも。

しかし要注意…

平均値ばかり見て可視化を怠ると構造を見逃す

https://www.research.autodesk.com/publications/same-stats-different-graphs/

作図してみると全体像・構造が見やすい

情報をうまく絞って整理 → 直感的にわかる

plot of chunk simplify-diamonds

carat が大きいほど price も高いらしい。
その度合いは clarity によって異なるらしい。

統計とは

データをうまくまとめ、それに基づいて推論するための手法。

  • 記述統計: データそのものを要約する
    • 要約統計量 (e.g., 平均、標準偏差、etc.)
    • 作図、作表
  • 推測統計: データの背後にある母集団・生成過程を考える
    • 数理モデル
    • 確率分布
    • パラメータ(母数)

「グラフを眺めてなんとなく分かる」以上の分析にはモデルが必要

モデルとは

対象システムを単純化・理想化して扱いやすくしたもの

Mathematical Model 数理モデル
数学的な方程式として記述されるもの。
e.g., Lotka-Volterra eq., Hill eq.

Computational Model 数値計算モデル
数値計算の手続きとして記述されるもの。
e.g., Schelling’s Segregation Model, tumopp

Concrete Model 具象モデル
具体的な事物で作られるもの。
e.g., San Francisco Bay-Delta Model
Weisberg 2012 Simulation and Similarity (科学とモデル)

データ科学における数理モデル

データ生成をうまく真似できそうな仮定の数式表現。
 


「データ分析のための数理モデル入門」江崎貴裕 2020 より改変

データ科学における数理モデル

データ生成をうまく真似できそうな仮定の数式表現。
e.g., 大きいほど高く売れる: $\text{price} = A \times \text{carat} + B + \epsilon$

plot of chunk lm-diamonds

新しく採れたダイヤモンドの価格予想とかにも使える。

このように「YをXの関数として表す」ようなモデルを回帰と呼ぶ。

今回は回帰を軸とした統計モデリングの解説

単純な直線あてはめから出発し、ちょっとずつ統計モデリング。

久保さん https://kuboweb.github.io/-kubo/ce/LinksGlm.html

回帰は教師あり機械学習の一種とも言える

でも統計モデリングはいわゆる“機械学習”とは違う気もする…?

モデリングにおける2つのアプローチ


「データ分析のための数理モデル入門」江崎貴裕 2020 より改変

どっちも知っておいて使い分けたい

項目 統計モデリング 近年の機械学習
例 一般化線形モデル
階層ベイズモデル
ランダムフォレスト
ニューラルネットワーク
モデル構造 単純化したい 性能のためなら複雑化
モデル解釈 ここが強み 難しい。重視しない。途上。
予測・生成 うまくすれば頑健 主目的。強力。高精度
データ量 少なくてもそれなり 大量に必要
計算量 場合による 場合による

本講演のお品書き

データ解析のための統計モデリング入門 久保拓弥 2012

久保先生の"緑本"こと
「データ解析のための統計モデリング入門」
をベースに回帰分析の概要を紹介。

  1. イントロ (#7 9/30)
  2. 統計モデルの基本
    • 確率変数・確率分布 👈 本日の主役
    • 尤度・最尤推定
  3. 一般化線形モデル、混合モデル (#10 12/14 前半)
  4. ベイズ統計、階層ベイズモデル (#10 12/14 後半)

回帰のキモは線ではなく分布。


Data Science Hill Climb 2021 (東京海上) での講義 (~6時間) の演習無し抜粋バージョン (~2時間 x 2回)。

回帰モデルの2段階

  1. Define a family of models: だいたいどんな形か、式をたてる

    • 直線: $y = a_1 + a_2 x$
    • 対数: $\log(y) = a_1 + a_2 x$
    • 二次曲線: $y = a_1 + a_2 x^2$
  2. Generate a fitted model: データに合うようにパラメータを調整

    • $y = 3x + 7$
    • $y = 9x^2$

https://r4ds.had.co.nz/model-basics.html

たぶん身長が高いほど体重も重い

なんとなく $y = a x + b$ でいい線が引けそう
 

plot of chunk weight-height

たぶん身長が高いほど体重も重い

なんとなく $y = a x + b$ でいい線が引けそう
じゃあ切片と傾き、どう決める?

plot of chunk weight-lines

最小二乗法

回帰直線からの残差平方和(RSS)を最小化する。

plot of chunk weight-residual

残差平方和(RSS)が最小となるパラメータを探せ

ランダムに試してみて、上位のものを採用

plot of chunk weight-goodlines

残差平方和(RSS)が最小となるパラメータを探せ

グリッドサーチ: パラメータ空間の一定範囲内を均等に試す

plot of chunk weight-grid

こうした最適化の手法はいろいろあるけど、ここでは扱わない。

これくらいなら一瞬で計算してもらえる

par_init = c(intercept = 0, slope = 0)
result = optim(par_init, fn = rss_weight, data = df_weight)
result$par
intercept     slope 
-50.54532  67.18659 

plot of chunk weight-lm

何でもかんでも直線あてはめではよろしくない

plot of chunk lm-bad

  • 観察データは常に正の値なのに予測が負に突入してない?
  • 縦軸は整数。しかものばらつきが横軸に応じて変化?

何でもかんでも直線あてはめではよろしくない

plot of chunk glm-better

  • 観察データは常に正の値なのに予測が負に突入してない?
  • 縦軸は整数。しかものばらつきが横軸に応じて変化?
  • データに合わせた統計モデルを使うとマシ

ちょっとずつ線形モデルを発展させていく

線形モデル LM (単純な直線あてはめ)

    ↓ いろんな確率分布を扱いたい 👈 統計モデルの重要な部品

一般化線形モデル GLM

    ↓ 個体差などの変量効果を扱いたい

一般化線形混合モデル GLMM

    ↓ もっと自由なモデリングを!

階層ベイズモデル HBM

「データ解析のための統計モデリング入門」久保拓弥 2012 より改変

確率分布

発生する事象(値)と頻度の関係。

手元のデータを数えて作るのが経験分布
e.g., サイコロを12回投げた結果、学生1000人の身長

plot of chunk distribution

一方、少数のパラメータと数式で作るのが理論分布。
(こちらを単に「確率分布」と呼ぶことが多い印象)

確率変数$X$はパラメータ$\theta$の確率分布$f$に従う…?

$X \sim f(\theta)$

e.g.,
コインを3枚投げたうち表の出る枚数 $X$ は二項分布に従う。
$X \sim \text{Binomial}(n = 3, p = 0.5)$

plot of chunk dbinom

\[\begin{split} \text{Prob}(X = k) &= \binom n k p^k (1 - p)^{n - k} \\ k &\in \{0, 1, 2, \ldots, n\} \end{split}\]

一緒に実験してみよう。

試行を繰り返して記録してみる

コインを3枚投げたうち表の出た枚数 $X$

試行1: 表 裏 表 → $X = 2$
試行2: 裏 裏 裏 → $X = 0$
試行3: 表 裏 裏 → $X = 1$ 続けて $2, 1, 3, 0, 2, \ldots$

plot of chunk rbinom

試行回数を増やすほど二項分布の形に近づく。
0と3はレア。1と2が3倍ほど出やすいらしい。

コイントスしなくても $X$ らしきものを生成できる

  • コインを3枚投げたうち表の出る枚数 $X$
  • $n = 3, p = 0.5$ の二項分布からサンプルする乱数 $X$
plot of chunk dbinom
$X \sim \text{Binomial}(n = 3, p = 0.5)$

   ↓ サンプル

{2, 0, 1, 2, 1, 3, 0, 2, …}

これらはとてもよく似ているので
「コインをn枚投げたうち表の出る枚数は二項分布に従う」
みたいな言い方をする。逆に言うと
「二項分布とはn回試行のうちの成功回数を確率変数とする分布」
のように理解できる。

統計モデリングの一環とも捉えられる

コイン3枚投げを繰り返して得たデータ {2, 0, 1, 2, 1, 3, 0, 2, …}

   ↓ たった2つのパラメータで記述。情報を圧縮。

$n = 3, p = 0.5$ の二項分布で説明・再現できるぞ


「データ分析のための数理モデル入門」江崎貴裕 2020 より改変

こういうふうに現象と対応した確率分布、ほかにもある?

有名な確率分布、それに「従う」もの

離散一様分布
コインの表裏、サイコロの出目1–6
幾何分布
成功率pの試行が初めて成功するまでの失敗回数
二項分布
成功率p、試行回数nのうちの成功回数
ポアソン分布
単位時間あたり平均$\lambda$回起こる事象の発生回数
ガンマ分布
ポアソン過程でk回起こるまでの待ち時間
(k = 1のとき指数分布と呼ばれる)
正規分布
確率変数の和、平均値

離散一様分布

同じ確率で起こるn通りの事象のうち実際に起こった事象X

e.g., コインの表裏、サイコロの出目1–6

plot of chunk dunif

🔰 一様分布になりそうな例を考えてみよう

幾何分布 $~\text{Geom}(p)$

成功率pの試行が初めて成功するまでの失敗回数X

e.g., コイントスで表が出るまでに何回裏が出るか

plot of chunk geometric

\[ \text{Prob}(X = k \mid p) = p (1 - p)^k \]

「初めて成功するまでの試行回数」とする定義もある。

🔰 幾何分布になりそうな例を考えてみよう

二項分布 $~\text{Binomial}(n,~p)$

確率$p$で当たるクジを$n$回引いたうち当たった回数X。平均は$np$。

plot of chunk dbinom-n

\[ \text{Prob}(X = k \mid n,~p) = \binom n k p^k (1 - p)^{n - k} \]

🔰 二項分布になりそうな例を考えてみよう

ポアソン分布 $~\text{Poisson}(\lambda)$

単位時間(空間)あたりに平均$\lambda$回発生する事象が実際に起きた回数X。

e.g., 1時間あたりのメッセージ受信件数、メッシュ区画内の生物個体数

plot of chunk dpoisson

\[ \text{Prob}(X = k \mid \lambda) = \frac {\lambda^k e^{-\lambda}} {k!} \]

二項分布の極限 $(\lambda = np;~n \to \infty;~p \to 0)$。
めったに起きないことを何回も試行するような感じ。

指数分布 $~\text{Exp}(\lambda)$

ポアソン過程の事象の発生間隔x。平均は $1 / \lambda$ 。

e.g., メッセージの受信間隔、道路沿いに落ちてる手袋の間隔

plot of chunk dexp

\[ \text{Prob}(x \mid \lambda) = \lambda e^{-\lambda x} \]

幾何分布の連続値版。

🔰 ポアソン分布・指数分布になりそうな例を考えてみよう

ガンマ分布 $~\text{Gamma}(k,~\lambda)$

ポアソン過程の事象k回発生までの待ち時間x

e.g., メッセージを2つ受信するまでの待ち時間

plot of chunk dgamma

\[ \text{Prob}(x \mid k,~\lambda) = \frac {\lambda^k x^{k - 1} e^{-\lambda x}} {\Gamma(k)} \]

指数分布をkのぶん右に膨らませた感じ。
shapeパラメータ $k = 1$ のとき指数分布と一致。

正規分布 $~\mathcal{N}(\mu,~\sigma)$

平均 $\mu$、標準偏差 $\sigma$ の美しい分布。よく登場する。
e.g., $\mu = 50, ~\sigma = 10$ (濃い灰色にデータの95%, 99%が含まれる):

plot of chunk gaussian

\[ \text{Prob}(x \mid \mu,~\sigma) = \frac 1 {\sqrt{2 \pi \sigma^2}} \exp \left(\frac {-(x - \mu)^2} {2\sigma^2} \right) \]

正規分布に近づくものがいろいろある

標本平均の反復(中心極限定理); e.g., 一様分布 [0, 100) から40サンプル

plot of chunk central-limit

大きい$n$の二項分布

plot of chunk binom-normal

正規分布に近づくものがいろいろある

大きい$\lambda$のポアソン分布

plot of chunk poisson-normal

平均値固定なら$k$が大きくなるほど左右対称に尖るガンマ分布

plot of chunk gamma-normal

有名な確率分布対応関係ふりかえり


離散一様分布
コインの表裏、サイコロの出目1–6
幾何分布
成功率pの試行が初めて成功するまでの失敗回数
二項分布
成功率p、試行回数nのうちの成功回数
ポアソン分布
単位時間あたり平均$\lambda$回起こる事象の発生回数
ガンマ分布
ポアソン過程でk回起こるまでの待ち時間
(k = 1のとき指数分布と呼ばれる)
正規分布
確率変数の和、平均値。使い勝手が良く、よく登場する。

現実には、確率分布に「従わない」ことが多い

植物100個体から8個ずつ種子を取って植えたら全体で半分ちょい発芽。
親1個体あたりの生存数はn=8の二項分布になるはずだけど、
極端な値(全部死亡、全部生存)が多かった。

plot of chunk overdispersion

「それはなぜ?」と考えて要因を探るのも統計モデリングの仕事。
「普通はこれに従うはず」を理解してこそできる思考。

疑似乱数生成器 Pseudo Random Number Generator

コンピューター上でランダムっぽい数値を出力する装置。
実際には決定論的に計算されているので、
シード(出発点)と呼び出し回数が同じなら出る数も同じになる。

set.seed(42)
runif(3L)
# 0.9148060 0.9370754 0.2861395
runif(3L)
# 0.8304476 0.6417455 0.5190959
set.seed(42)
runif(6L)
# 0.9148060 0.9370754 0.2861395 0.8304476 0.6417455 0.5190959

シードに適当な固定値を与えておくことで再現性を保てる。
ただし「このシードじゃないと良い結果が出ない」はダメ。

さまざまな「分布に従う」乱数を生成することもできる。

いろんな乱数を生成・可視化して感覚を掴もう

🔰 ?rbinom などヘルプを参照しつつたくさん試そう。

🔰 e.g., 1%の当たりを狙って100連ガチャを回した場合とか

n = 100
x = sample.int(6, n, replace = TRUE)
x = runif(n, min = 0, max = 1)
x = rgeom(n, prob = 0.5)
x = rbinom(n, size = 3, prob = 0.5)
x = rpois(n, lambda = 10)
x = rnorm(n, mean = 50, sd = 10)
print(x)

p1 = ggplot(data.frame(x)) + aes(x)
p1 + geom_histogram() # for continuous values
p1 + geom_bar()       # for discrete values

データに分布をあてはめたい

ある植物を50個体調べて、それぞれの種子数Xを数えた。

plot of chunk poisson-seed

カウントデータだからポアソン分布っぽい。
ポアソン分布のパラメータ $\lambda$ はどう決める?

データに分布をあてはめたい

ある植物を50個体調べて、それぞれの種子数Xを数えた。

plot of chunk poisson-seed-lambda

カウントデータだからポアソン分布っぽい。
ポアソン分布のパラメータ $\lambda$ はどう決める?
(黒が観察データ。青がポアソン分布。よく重なるのは?)

尤ゆう度 (likelihood)

尤もっともらしさ。 モデルのあてはまりの良さの尺度のひとつ。

あるモデル$M$の下でそのデータ$D$が観察される確率。
定義通り素直に書くと
$\text{Prob}(D \mid M)$

データ$D$を固定し、モデル$M$の関数とみなしたものが尤度関数:
$L(M \mid D)$

モデルの構造も固定してパラメータ$\theta$だけ動かす場合はこう書く:
$L(\theta \mid D)$ とか $L(\theta)$ とか

尤度を手計算できる例

コインを5枚投げた結果 $D$: 表 4, 裏 1

表が出る確率 $p = 0.5$ と仮定:

\[\begin{split} L(0.5 \mid D) &= \binom 5 1 \times \text{Prob}(表 \mid 0.5) ^ 4 \times \text{Prob}(裏 \mid 0.5) ^ 1 \\ &= 5 \times 0.5 ^ 4 \times 0.5 ^ 1 = 0.15625 \end{split}\]

表が出る確率 $p = 0.8$ と仮定:

\[\begin{split} L(0.8 \mid D) &= \binom 5 1 \times \text{Prob}(表 \mid 0.8) ^ 4 \times \text{Prob}(裏 \mid 0.8) ^ 1 \\ &= 5 \times 0.8 ^ 4 \times 0.2 ^ 1 = 0.4096 \end{split}\]

$L(0.8 \mid D) > L(0.5 \mid D)$

$p = 0.8$ のほうがより尤もらしい。

種子数ポアソン分布の例でも尤度を計算してみる

ある植物が作った種子を数える。$n = 50$個体ぶん。

\[\begin{split} L(\lambda \mid D) = \prod _i ^n \text{Prob}(X_i \mid \lambda) = \prod _i ^n \frac {\lambda ^ {X_i} e ^ {-\lambda}} {X_i !} \end{split}\]

plot of chunk poisson-seed-likelihood

この中では $\lambda = 3$ がいいけど、より尤もらしい値を求めたい。

最尤推定 Maximum Likelihood Estimation

扱いやすい 対数尤度 (log likelihood) にしてから計算する。
一階微分が0になる $\lambda$ を求めると…標本平均と一致。

\[\begin{split} \log L(\lambda \mid D) &= \sum _i ^n \left[ X_i \log (\lambda) - \lambda - \log (X_i !) \right] \\ \frac {\mathrm d \log L(\lambda \mid D)} {\mathrm d \lambda} &= \frac 1 \lambda \sum _i ^n X_i - n = 0 \\ \hat \lambda &= \frac 1 n \sum _i ^n X_i \end{split}\]

plot of chunk poisson-mle

最尤推定を使っても“真のλ”は得られない

今回のデータは真の生成ルール“$X \sim \text{Poisson}(\lambda = 3.0)$”で作った。
「50個体サンプル→最尤推定」を1,000回繰り返してみると:

plot of chunk poisson-mle-repl

サンプルの取れ方によってはかなりズレた推定をしてしまう。
(標本データへのあてはまりはかなり良く見えるのに!)

サンプルサイズを増やすほどマシにはなる

“$X \sim \text{Poisson}(\lambda = 3.0)$”からnサンプル→最尤推定を1,000回繰り返す:

plot of chunk poisson-mle-nsam

Q. じゃあどれくらいのサンプル数nを確保すればいいのか?
A. 推定したい統計量とか、許容できる誤差とかによる。

すべてのモデルは間違っている

確率分布がいい感じに最尤推定できたとしても、
それはあくまでモデル。仮定。近似。

All models are wrong, but some are useful. — George E. P. Box


「データ分析のための数理モデル入門」江崎貴裕 2020 より改変

統計モデリングの道具 — まとめ

  • 何はともあれ作図して俯瞰
  • 確率変数 $X$
  • 確率分布 $X \sim f(\theta)$
    • 少ないパラメータ $\theta$ でばらつきの様子を表現
    • この現象はこの分布を作りがち(〜に従う) という知見がある
  • 尤度
    • あるモデルでこのデータになる確率 $\text{Prob}(D \mid M)$
    • データ固定でモデル探索 → 尤度関数 $L(M \mid D),~L(\theta \mid D)$
    • 対数を取ったほうが扱いやすい → 対数尤度 $\log L(M \mid D)$
    • これを最大化するようなパラメータ $\hat \theta$ 探し = 最尤法

参考文献